スクリューキャップのワインは安物?いいえ、違います

タイトルで、もう、結論を書いてしまいました。

そうなんです、コルク栓じゃない、あの金属製の「スクリューキャップのワイン」=「安物のワイン」、ではないんです。しかし、どうも誤解があるようですので、今日は、その誤解を解いてみたいと思います。

「スクリューキャップ」は、ワインの栓のひとつで「手でねじって開栓できる金属製のキャップ」です。他に、ワインの栓には、コルク栓、合成コルクの栓(最近流行っている)、樹脂栓、ガラス栓などがあります。

確かに、「ワインたるものコルク栓が正統である」というのは、広く知られているイメージですね。実際にフランスをはじめとするヨーロッパ各国の高級ワインは、今もほとんどがコルク栓ですし、ヨーロッパ以外でもハイクラスのワインにコルク栓を採用しているワイナリーが多い。高いワインほどコルク採用率が高い。それは間違っていないでしょう。

一方で、コンビニやスーパーで売られているお値打ちワインは、コルクを使っていないものが多い。スクリューキャップであることが多い。

でも、だからと言って、高級=コルク、安物=スクリューと決めつけるのは、間違っています。

だってね・・・・

ワインボトル ソムリエブログ

<普段はワインセラーでおねんねしています>

これらすべてニュージーランド産のスクリューキャップのワインです。

左:ベル ヒル ピノ・ノワール 2009 (参考価格 20,000円〜) 中:フェルトン ロード ピノ・ノワールブロック3 2006 (参考価格 13,000円〜) 右:ジ エルダー  ピノ・ノワール2015 (参考価格 5,500円〜

決して、スクリューキャップ=安物、ではないんですな。

ニュージーランドでのスクリューキャップの採用率は、ワイン産国の中でも突出しており、実に99%以上。ニュージーランドでは、ほとんどのワイナリーの人たちが、自分たちのつくるワインに合う栓としてスクリューキャップを採用しています。

スクリューキャップ

<当店、ニュージーランドワインが中心の店なので、2週間でこれくらいたまります。>

ワイナリーの人たちがスクリューキャップを採用する理由はいくつかあると思うのですが、いちばん大きいのは、やっぱり合理的だから、でしょう。

コルク栓のワインは、どうしても、不良品が出てしまうリスクがあります。その不良品とは「コルク中の成分によって汚染されたワイン」です。コルクの中には微量、人間にとって不快な匂いを放つ細菌が潜んでいることがあり、それがあった場合、取り除くことはなかなか難しい。その細菌のせいで、ワイン自体が雑巾みたいな匂いを放つことがあります。最悪です。これを「ブショネ(bouchonne:仏語)」と呼びます。「わー、このワイン、高かったのに、ブショってる!」とか言います。

近年、技術が進んできて、ブショネの発生率は改善されつつありますが、どんな高級品であっても雑巾汁入りの香りになる可能性はゼロではありません。これ、ワイン界の厳しい現実。その点、スクリューは、ほとんどそのリスクがないので、とっても合理的。

また、コスト面でもスクリューは合理的です。コルク栓は、どうしても輸入コストがかかります。なぜなら、世界のコルク栓の約半数はポルトガル産。あんなちっちゃなものでも、海を越えて輸入したら、そりゃ高くなります。

じゃあ、ニュージーランドでコルク樫の木を植えて育てればよいじゃないか、と思うかもしれませんが、コルク樫は、植えてからなんと30年は収穫できません。植えた木は息子に託すビジネスなんですな。気が遠くなる話。ワインの栓が欲しいのは30年後じゃなくて今です。

その点、スクリューキャップの栓はすぐ作れます。世界各国で製造・販売システムがすでに確立されていて、安価です。

ただ一方で、スクリューキャップを採用すると「コルクならではのメリット」を切り捨てることになります。

コルクのメリットをまとめておくと・・・

まず、高級感。やはりコルク栓は「ワインを飲むぞ!」って気分を盛り上げてくれます。例えばお店で。

さあ、ワインを選んだ。どんな味かな。わくわくするな。さあ、ソムリエが栓を開けるぞ。開いた。コルクを差し出された。匂いを嗅いでみよう。うん、期待が高まる。いよいよワインがグラスに注がれて、キター!!ウマーーー!!!

じわじわと高まる期待が、飲んだときの感動を1ランクあげてくれるのは間違いないでしょう。コルクを抜く行為が、ワインを飲む前の助走になるわけですな。

それから、酸素透過性。コルクは、ほんの少しだけ、酸素を通します。この微量の酸素が、瓶の中でワインが熟成するためには必要とされている。だから、高級ワインがきちんとエイジングして、まろやか&えも言われぬ「高級・熟ワイン」になるためには、コルクが必須と言われています。

ただスクリューキャップも微量、酸素を通すものがあって、それなら熟成可能だと言う人もいます。このへんは意見が分かれているのが現状。なんせ、10年熟成の検証には、10年かかりますからね。まだ議論が必要なところです。

(あと、コルクのメリットとしては、他に「ヘッドスペースが少ないこと」や「打栓時に酸素を追い出す仕組みが確立されていること」なんかもあると思いますが、ちょっと込み入った話になってくるのでここでは割愛します。)

ワインをつくっている人は、そういったメリットとデメリットを天秤にかけて、栓の種類の選択をしています。現状は、どちらかと言えば、コルク→スクリュー(or コルク→合成コルク)に変更するという流れは加速している印象です。

というわけで、結論。

  • スクリューキャップ=安ワインではない
  • 品質保持(雑巾臭回避)のためにスクリューを使う高級ワインもある
  • スクリューが熟成に向いているかどうかはまだ議論の最中

やはり、「コルクのワイン=ワインらしいワイン」というイメージはそう簡単には覆らないですが、スクリューだからと言って馬鹿にしないでね、というのが、今日、言いたかったことです。

あと、これは議論の余地のない、非常にクリアーな事実なのですが、わたくし、毎日お店でスクリューキャップのワインばかり開けているせいで、コルクを抜くのがめっちゃ下手になりました。たまにコルクを抜くときには、背中に汗をかいています。あんまり注目しないでくださいませ。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
1 / 4