レストランでの「ワインの味見」の正解は?

「今度、いい感じのフレンチを予約したんです。彼氏と付き合って2年の記念日ってことで。でも、私、フレンチっていとこの結婚式しか経験したことがなくて。緊張するなあ。」

カウンターでそう話すのは、社会人2年目の女子Yさん。

僕は思いました。すごい時代になったなあ、と。僕が若い頃は、ちょっといい食事は「男性が予約」するもので、「作法とかどうしよう」って気を揉むのも男性のほうだったけど、今や、それは古いんだな、と。

そう言えば、男性って、お気に入りの場所を決めて、そこに通う人が多いような気がする。でも女性は、いろんなお店の情報を仕入れて、あちこち行ってる人の方が、たぶんずっと多い。

「あそこのフレンチ良かったよ」なんていう情報交換って、あんまり男性同士では聞かないけど、女性同士なら普通にあるんだろうなあ、なんて思いながら、話を聞いていました。すると、Yさんからこんな質問が。

「二人ともよく飲むから、ボトルワインを開けちゃおうかなと思ってるんですけど・・・本当に、高級なお店でのお作法がわかんなくて。ワインの味見?あれってどうしたらいいんですか?」

なるほど。

慣れない方にとって、高級な店でボトルワインをオーダーしたときの「味見」、これが、どうやら「緊張ポイント」のようで。確かに、これって学校でも教わらないし、親も教えてくれない。会社の上司の指導もない。

よし。これは、ワイン業界に携わる人がちゃんとお伝えしなきゃいかん案件ですね。

ということで、今日は初のフレンチデートをご予定のYさんのご質問にお答えすべく、レストランでの「ワインの味見」の正解についてのお話。

まず結論:覚えておくセリフ

まず結論を先に。レストランでワインの味見を求められたら・・・・

  • ひとくち飲んで、『お願いします』 or 『美味しいです』 でOK。
  • 味が好みと違っても、交換は不可能。

これさえ覚えておけば、基本的には大丈夫です。

ワインオーダーの流れ

では、具体的に、レストランでボトルワインを選ぶときの手順を説明しましょう。時間の流れ順に、1)~3)にわけていってみます。

1)ボトルワインをリストから選ぶ時間

ワインリストの中から、ワインを選びます。実はこれがいちばん難しかったりします。大事なのは、「希望の価格帯」と「好きな味」をソムリエに伝えること。

もし、フルコースのお料理をオーダーしたのならば、「通して1本のワイン」というのは、ペアリング的になかなか難しいこともあります。かと言って、グラスワインをひとつひとつの料理にあわせてもらっていたら、それはそれで予算がどーんと上がるかも・・・。それに好きじゃないワインが出てくる可能性もありますね。ならば、「今宵は好きなタイプのワイン『1本勝負』でGO」っていうのもアリだと思います。

まずは、「希望の価格帯」をスマートに伝えます。これは必勝法あり、です。ずばり、「ワインリストの中から、今日のワイン予算と同じくらいのワインの「値段の部分」を指さし、「今日はこのあたりがいいですね」と言う。これ大事です。「値段を指して、今日はこのあたり」

これで、あからさまに金額を口にすることなく、あなたのワインの予算がソムリエにばっちり伝わります。伝わらなかったら、そのソムリエはアカン・ヤツです。

価格帯が伝わったら、好きな味を伝えましょう。最初は、ワインのタイプを選びます。「スパークリング」、「白」、「赤」、「ロゼ」。どんなワインがいいか。これは、もてなしたい人(その日のゲスト)の希望を聞いて決めるのが良いです

もし自分が好みを伝える場合、基本の3択ワードを覚えておいて、それを言えば大丈夫です。

泡や白やロゼならば・・・

「さっぱり」 「フルーティー」 「厚みのある」

ざっくり、この3択でOK(と僕は考えています)。自分の好みにあいそうなワードを選んで言ってみてください。

赤ならば・・・・

「やさしい」 「ミディアム」 「濃厚」

この3択から選んで伝えると良いでしょう。

きっと、値段に見合ったその店のお薦めが出てくるはずです。

2)ソムリエがワインをスタンバイするのを見ている時間

これはもう、見ているだけです。ワインを選んだ人(その会のホスト)に向けて、ソムリエがラベルを見せながら、ごにょごにょ言います。ワインの銘柄とか、ラベルに書いてあることをただ確認するだけです。

「注文したワインと間違いないか」の儀式なので、それほど重要ではありません。

ごにょごにょが終わると、ソムリエはワインの栓を抜きます。そして、あなたにこう聞きます。「テイスティングさせていただいてよろしいでしょうか。」これは、いわゆる「ソムリエ・テイスティング」という品質チェック。まあ、これもほとんど儀式です。(まれに「やべっ」ていう品質のものが見つかることがあり、その場合は、新しいワインに交換されます。)

3)いよいよ緊張の(!?)試飲。(ホスト・テイスティングと言います)

さっきラベルを見せられた人(つまりワインを選んだ人)のグラスに、ワインがちょっとだけ注がれます。ビールと違って、グラスは持たなくて良いです。

注ぎ終わると、ソムリエは言います。

「お味見をお願いいたします。」

キター

・・・と、身構える必要はありません。なぜなら、これもほとんど儀式なので。

そう、注がれて、ひとくち飲んだあなたは、こう言うだけです。

「お願いします。」

あるいは、

「美味しいです。」

はたまた、

「大丈夫です。」でも、「問題ないです。」でも、「いいですね~」でも、「最っ高!!」でもいい。なんなら、「おぬし、やりおるな!」でもいい(いや、それはやり過ぎか)。

必要なのは、「このワインでOKですというゴーサイン」を出すこと

え!?それだけでいいの?

はい。基本的にそれで大丈夫です。

ゴーサインのみでOK、交換は基本NGの理由

実は、この「ワインを選んだお客さんによる味見」は、選んだワインの味が気に入るかどうかはまったく関係ありません。ワインの香りや味が異常でないこと」、それを確認するためだけの行為なんです。

ワインは、不良コルクや輸送時など管理不行き届きで、品質が劣化することがある飲み物。高いくせにけっこう繊細。いや、高いからこそ傷つきやすいのかな。とにかく、「どんな高級品であっても、中身が悪くなっている恐れがある」というのが前提のお酒なのです。

だから、高級店では、ソムリエによる第一関門を通って、そのあと、最終的にお客さまのOKという第二関門を通ってはじめて、「金額が発生」となるんです。

で、たいがいの場合、さっき、プロであるソムリエが関所を通しているので、まあ、そこは信頼しましょうとなる。だから、「お願いします。」or「美味しいです」=テーブル全員注いでください、で大丈夫ということになります。

もちろん、あなたのワイン経験が豊富の場合は例外です。ソムリエが見過ごしてしまった悪者を、「おぬし、素知らぬ顔をしておるが、正体は罪人であるな!この目はごまかせぬわい!」と引っ捕らえることができるならば、もういちどソムリエの関所に戻すことは可能です。

つまり、ちょっとおかしいと思ったら、もう一度、ソムリエに確認してもらって、ソムリエが「なるほど、確かに。こちらは劣化していますね。」と判断すれば、「返品可能」です。(劣化と言えるかどうかの線引きはなかなか難しく、ソムリエと言えど、判断に迷う微妙なワインも、たまーーにあるのです。)それ以外の場合は、基本的に返品できないというルールになっています。

「劣化ナシ、でも味がイマイチ」。そんな場合があったとしても、すみません、その夜は受け入れてください。これは、料理と同じ扱いですね。お料理が「うーん、ピンとこない味だなあ」と思っても、返品・交換はできないですよね。

もし、もうちょっと自分好みのワインに出会いたかったなあ、と思ったら。

「じゃ、どうオーダーしたら、もっと好みのワインが出てくるんだろう」

「よし、好きな品種でも覚えるか」

そんな感じで、すこしワインの世界に興味を持っていただき、うちのようなカジュアルな店で予習をしておくと、その予習が「未来の満足感」へとつながると思います(結局そこか!せこくてゴメン!)。

おさらい

  • ワインリストは、「予算の指さし」「味の好みをざっくり伝える」
  • 注がれるのを待つ
  • ホスト・テイスティング(味見)は、基本「美味しいです」

あとはゆっくり楽しむだけ。

高級レストランのワインは、ある程度のレベルのものばかりなので、がぶ飲みはせずに、時間をかけて、香りと味の変化を感じながら、楽しんでくださいね。

あ、最後にもうひとつ。高級店では、ワインの注ぎ足しは基本的にソムリエがやってくれるので、カジュアル店みたいに「自分で注ぐ」ことはしなくて大丈夫です。もし、注いで欲しいな、と思ったら、ソムリエを呼んで注いでもらいましょう。

ということで、Yさん、参考になったでしょうか。ぜひ、彼との2周年のディナー、楽しんでくださいね。それにしても、フレンチディナーの予習までちゃんとやる彼女をもった彼!

いいなあ。幸せもんだなあ。

(ちなみに、支払いはどっちなんだろうか・・・・)

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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