新メニュー「ラムしゃぶ」

緊急事態宣言を受けて、2月末までの7週間、お店を休みました。飲食店経営をはじめて10年以上ですが、こんなに長く店を休んだのは初めてです。

緊急事態宣言が解除になったので、営業を再開しましたが、「飲食店経営がピンチ」という緊急事態はまだ続いています。くぅ。はよ解除したい。

ヘミングウェイ先生はこう言っていました。

人間の価値は、敗北に直面していかにふるまうかにかかっている。

まず、今の自分が置かれている状況を敗北と認めなきゃいけないところがけっこう辛いんだけれど、実際に、コロナでもなんともない業種もあるわけだから、今の飲食店は敗北寄りであることは間違いない。

だから今、いかにふるまうか、これが人間の価値なのだ。くぅぅ、重たいですなあ。今の僕のふるまいこそが、僕の価値ってことね。

よく言いますもんね。チャンスは準備してる人にしかやってこないって。だから、準備をしよう。それが、今思いつくベストなふるまい。

ということで、新メニューをつくりました。

ラムしゃぶ。

ラムしゃぶ

僕の店「ボクモ」は、ニュージーランドワインをメインとする飲食店です。 お食事も、いろいろとニュージーランドの食材を使っています。

定番メニューに、ラムチョップステーキというのがあります。 これです。

ラムチョップステーキ

おかげさまで、よく出ます。いや、出てました(これからも出てほしい)。

最初、これをはじめたときは、内心、「苦手な人が多いかもな」と思っていたのですが、意外なほどヒットしています。扱っているラム肉が、独特のクセが少ないことも要因かも知れませんが、思ったよりもラム好きな人って多いんだな、というのが実感です。

で、次のヒットをつくりたい。そう思って休業中に考えたのが「ラムしゃぶ」です。

決め手は、やっぱりラム肉のうまさです。いつもお世話になっているお肉屋さんにニュージーランド産の美味しいやつをお願いしました。あとは食感も大事なので、いろいろとスライスの厚さを変えて試食をして、ベストな厚みを決めました。出汁とポン酢はシェフのオリジナルレシピ。なるべくワインに寄り添うような工夫をしてもらいました。

ワインの店でしゃぶしゃぶをやるのはどうかな、とも少し思ったのですが、お客さんはすんなり受け入れてくれて、再開後、もっとも「これはうまい」の言葉をいただくメニューとなりました。1週間で2回、食べに来てくださった方もいます。ありがたや。

あわせるワインは、これまた「意外」になるかもしれませんが、NZの白ワイン「ソーヴィニヨン・ブラン」がいけます。お肉=赤ワインというイメージもあると思いますが、しゃぶしゃぶってさっぱりとした味になるので、あえてさっぱりとした白をあわせるのもアリだと思います。とくにNZのソーヴィニヨン・ブランは、柑橘系の香り・味わいが強いので、さっぱり仕上げたラム肉に、柑橘のドレッシングをあわせるみたいなイメージで、素晴らしくマッチする思います。

赤ワインをあわせる場合は、ピノ・ノワールがいいですね。NZのピノはベリーの香りが強く、渋みは中程度。ラム肉は食べたあとの余韻が長いので、いい香りが鼻腔に残っているところに、ベリー風味のピノをあわせると、あらまあ、複雑な旨さが口いっぱいに広がります。ほどよいタンニンは、脂分と結びついて、これまたえも言われぬ旨みへと昇華します。実に楽しい。

これ以外にも、いろいろと新メニューをつくりました。

  • サーモンパイ
  • 牛タンローストビーフ
  • 棗(なつめ)クリームチーズピザ
  • NZのデザート・パブロバ

などなど。

準備は整えた。あとは環境がいつ整うか。

振り返ったときに、この新メニュー開発が、ベストなふるまいだった、となっているといいな。

今週のワインとおつまみ

さっき書いた、ラムしゃぶとワインの具体案がよいかな、と思うので、ベストマッチだと思うワインの銘柄、書いておきます。

白ワイン

CLOUDY BAY Marlborough SAUVIGNON BLANC 2020

CLOUDY BAY Marlborough SAUVIGNON BLANC 2020

泣く子も黙るクラウディ・ベイ。このクラウディ・ベイが世界的なベストセラーになったことで、NZワインが認知されたという、言わば「NZワイン発展の功労者」的なワインです。

最新ヴィンテージの2020のソーヴィニヨン・ブランは、非常にフレッシュな酸が特徴で、「キリリとした酸味」という表現がぴったりです。ライムのような爽やかさ、そして豊富なコクは、ラムしゃぶに添える「リッチなライムソース」みたいな役割を果たしてくれると思います。最高。書いている今も、唾が出てきちゃう。

赤ワイン

SLIDING HILL Marlborough PINOT NOIR 2018

SLIDING HILL Marlborough PINOT NOIR 2018

営業再開後、お店でグラスワインで出しているピノ・ノワールです。赤いベリー系の果物の香り、口当たりのまろやかさ、適度な渋みがイイ感じ。大きめのブルゴーニュグラスで飲めば、さらに幸せな気分になれます。


 

ところで、自分でワインとラムしゃぶをあわせてみて分かったことがあります。

しゃぶしゃぶって、自分でお肉や野菜を入れて、火の入り具合を見て、良い塩梅になったら、とんすいに入ったタレにつけて食べますよね。

この一連の作業をしているとき、待ち時間が生じます。その待ち時間、知らず知らず、ワインを口に運んでいます。このワインは、「ペアリングなしのワイン」。いわゆる「ワイン単体の美味しさ」です。

これをまず記憶し、いざ、ラムしゃぶを口に運ぶ。そして、ワインを飲む。そうすると、さっきの単体の美味しさと比較し、ペアリングによって変化した美味しさに出会うことになります。「わー、さっきと変わった!うまい!」となる。

待ち時間にワイン単体→火が通ったらラム食べてペアリング→また待ち時間にワイン単体→今度は野菜とペアリング→…

鍋ものって、このループがめちゃくちゃスムーズに楽しめる食事なんです。やってみて初めて、鍋ものとワインって、ペアリングのやりやすさにおいて、抜群に相性が良いことに気づいちゃった。

え?

もう鍋シーズン、終わる春だよって?

・・・確かに。もうちょっと早く気づけばよかった。

でも、しゃぶしゃぶって通年メニューじゃない?クーラーの効いた部屋でしゃぶしゃぶってアリだよね?ね?誰か、うんって言ってくれ〜!(敗北に直面した奴の心の叫び)

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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