強いジャンルを持て

「なんでもいいから、強いジャンルを持て」

これは、僕がまだ学生の頃、ラジオの音楽番組のADをやっているときに、プロデューサーのT田さんに言われた言葉です。

当時の僕は19歳の大学生。音楽の知識はそれほどありませんでした。

音楽番組のディレクターとしてやっていくには、幅広い音楽を知る必要がある。だけど、それだけじゃだめで、ひとつジャンルを決めて、掘り下げなければならない。例えば、ジャズが好きだったら人よりうんとたくさんジャズを聴いて、ミュージシャンの情報、歴史や変遷、サブジャンルなどを頭に入れておく。そうすれば、「今度のジャズの特番、どのディレクターに任せようか」という会議の時、名前が挙がるようになる。

「強いジャンルを持て」というのは、僕を仕事が取れるようにしてやりたい、そう思うT田さんからの愛情だったわけです。

しかし、結局、僕はADからディレクターになって、そしてディレクターを辞めるまで、他の人よりも強いジャンルは作れませんでした(ジャンルじゃなくてバンドなら、RADWIMPSへの思いは負けない自信があるんだけれど)。そして、愛ある言葉をかけてくださったT田さんは、僕が店を立ち上げる半年前に鬼籍に入りました。残念ながら、強いジャンルを持った岩須を見せることはできなかった。

うーむ。僕って、なんで強いジャンルを作れなかったんだろう?

これ、ずっと考えていたのですが、つい最近、原因が分かりました。

たぶん、大学入試のセンター試験の影響です。

センターって、5教科まんべんなく点を取らなきゃいけない試験です。僕は数学が苦手で、模試の成績ではいつも数学が足を引っ張っていました。なので、予備校に行ったり、通信教育を受けたりして、寝ても覚めても数学ばかりやっていました。なんとか大学には受かったのですが、どうもこの受験勉強のときに「苦手を作っちゃいけない」「まんべんなくやらねば」という強迫観念が体に染みついた気がするのです。今でも、ふとしたときに「数学やらなきゃ」とつぶやいてる自分がいてビビります。

本当は好きな英語をもっとやっていたかった。けど、英語だけとんがってても、試験は通らない。強いジャンルを作るよりも、弱いジャンルをなくすのが大事。そう脳に強く刷り込んでしまった。結果、とんがりを作るのが苦手になやつになってしまったんです。ただのそつない人。なんだかなあ。

しかし、時を経て、僕もちょっと変わってきました。

おじさんになってきてようやく、そつなくいかねば、の呪縛が薄れてきました。

12年前、ワインの店をはじめたときの僕は、やっぱり割とまんべんない方向性で、世界じゅうのワインを扱っていました。まだ、そつない君。

しかし、ニュージーランドに住んでいる従兄にニュージーランドワインの素晴らしさを教えてもらってからは、徐々にそっちに傾いていき、現地のワイナリーに行ってぐっと愛が深まり、ここ6年くらいは、店のメインがニュージーランドワインです。ニュージーランドを介した知人も増えました。一昨年は、このニュージーランドワインラバーズのウェブサイトをスタートし、そして来月、ニュージーランドワインのオンラインショップを立ち上げることに。

「専門的なことやってるねえ」とか言われたり、「ニュージーランドワイン、飲みに来たよ」なんて嬉しいことを言ってくださる方も増えてきた。気づけばちょっと、とんがっている。これってもう、強めのジャンルって言っていいですよね?

T田さん、僕、あれから25年かかりましたけど、強いの、やっと持てたかもしれないです!

ニュージーランドワインなら岩須に聞こう、そう言ってもらえるよう、これからも掘り下げていきたいと思います。卒・そつない君!

今週のワインとおつまみ

SILENI ESTATES CELLAR SELECTION SAUVIGNON BLANC 2020

SILENI ESTATES CELLAR SELECTION SAUVIGNON BLANC 2020

日本での知名度が抜群のニュージーランドワイン「シレーニ エステート」の定番商品「セラーセレクション ソーヴィニヨン・ブラン」です。エノテカが輸入しています。

このワインの良さは、「リーズナブル」「味わいが良い」「入手のしやすさ」の三拍子が揃っているところです。

希望小売価格2,090円(税込)で、この味わいは価値ありです。毎年飲んでいますが、2020は特に秀逸な気がします。柑橘の香りがハッキリしていて爽快なフルーティーさがたまりません。このクオリティなら、2,500円〜3,000円出してもいいくらい。

エノテカさんの店頭やオンラインショップでもちろん売っていますが、なんと、うちの近所のスーパーマーケット「ナフコ」にもありました。ナフコ、センスいいぜ。

ペアリングのヒントは、このワインを柑橘系ドレッシングと置き換えて考えてみるとわかりやすいでしょう。柑橘系のドレッシングをかけて合いそうなもの、たとえば、サラダ、野菜のマリネ、カルパッチョ、白身魚の塩焼き、ポークジンジャー、ピザなどなど、かなり幅広い料理に合わせることができそうです。

僕はチキンナゲットと合わせてみました。もちろんばっちり。グッジョブ、シレーニ。

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
1 / 4