買い物っていったいなんだ?

 

今、オープンが近づいてきたワインショップの準備でバタバタしています。

ワインショップは、僕にとって人生で初めての「物販のお仕事」。やっぱり初めてのことって、何歳になってもワクワクしますね。

ただ、物販業界の猛者たちが密になって椅子取りゲームをしてる世界に「まだ椅子ありますか?」って飛び込んでいくようなもんだよな、と考えると、正直、大丈夫かなあとドキドキします。

よって今、バタバタ、ワクワク、ドキドキ

バタバタは嫌いじゃないし、ワクワクは楽しい。でもドキドキの心配は、できれば軽減したいもんです。

そうそう、ドキドキって、わからないことに対して起きるものですよね。だから、わかることが増えていけば、自然とドキドキしなくなる。つまり、僕の場合、飛び込もうとしている世界が何か、まだわかっていないから、わかることを増やせばいい。まずは、「そもそも買い物っていったい何か」ということがわかれば、落ち着いて椅子探しができるかも知れない。

「買い物」かあ。毎日するけど、僕が目指すべき買い物って、どんな感じかなあ。

ぼんやり考えていたら、ふと、先日のカウンターでの出来事を思い出しました。

先月(休業前、時短営業していました)、国語の先生をやっている常連さんが、ワインを飲み飲み言いました。

「岩須さん、ラジオの仕事やって、ワインバーやって、次、ワインショップですか。すごいですねえ。」

「すごくなんかないですよ。ラジオもワインバーも、まだまだへっぽこです。とくにラジオなんて、こないだ3日かけて書いた原稿がボツになっちゃったりして。凹むことも多いですよ。」

「へえ。その原稿ってどうやって書いてるんです?」

「普通にパソコンで書いてますけど。」

「なるほどね。じゃあ、一度、万年筆で書いてみるといいですよ。」

「え?なんで万年筆・・・?考えたこともなかったなあ。」

「岩須さんと話しているとね、割と直感型の人だと思うんですよね。そういう人って、パソコンでローマ字入力をするより、ノートに万年筆で書いた方が、すんなり自分の考えを書き記せると思うんですよ。」

言われてみると、確かにそうだ。僕の場合、手書きの方が、自分の頭に浮かんだフレーズを逃しにくい。パソコン入力は「整えながら書く」だけど、手書きだと「頭の中をプリントする」イメージ。散文的にパパッとメモして、整理はあとから。その方が、文章が比較的まとまることが多かった。

実は、ちょっと前に、ボールペンとノートをカバンにいつも入れてアイデアをまとめていた時期がありました。でも、ノートを持ち歩くのがめんどくさくなっちゃって、またパソコンに戻っていました。そうしたら、スランプがやってきた。スランプでもパソコンにかじりついて、うんうん唸っていました。

そうか、なるほど。僕はまずペンとノートで頭を整理して、それからパソコンで清書する方が向いてるんだ。でもまてよ、それは腑に落ちるけど、なんでボールペンじゃなくて、万年筆?

「あのね、岩須さん、あなた、ソムリエでしょう?仕事でいいソムリエナイフ、使っているでしょう?それと同じ。ライターでお金もらってる人だったら、万年筆のひとつでも持っていなきゃ。万年筆は、使えば使うほど、その人のものになっていくんですよ。こちらに寄り添ってくれる道具なんです。ソムリエナイフだってそうでしょう?」

・・・僕はもうメロメロになっていました。

次の日、僕は丸善にいました。国語の先生から、万年筆を買うなら丸善。なぜなら、丸善と言えば日本で最初の文房具屋さんで、夏目漱石が万年筆を買ったのも丸善。書き手を志すなら丸善一択で、と言われたのでした。はい、従います。

丸善名古屋本店は、すこし前まで、丸善ゼミナール(マルゼミ)のワインセミナーの講師として毎月お世話になっていたところです(その後ジュンク堂に場所を移して、今はコロナでお休み中)。

あのときも、万年筆コーナーがあったのは知っていました。が、自分とは縁遠い場所だと思っていました。しかし、トリガーがあれば人間ころっと行動が変わる。僕は、先生お薦めの「プラチナ万年筆#3776 センチュリー」を手にしていました。

名入れをオーダーしたので、実際に手元に届くまで、1ヶ月待ちました。ちょっとじらされたけれど、そのじらされも悪くない。

さあ、いよいよやってきた人生初の万年筆。色は、ワインの仕事やってる人間ならこれを選ぶでしょうっていう色、ブルゴーニュにしました。

さあ、頼んだぞ。僕の頭に浮かんだとりとめのない思いつきを、ノートにプリントしてくれよ。

万年筆

ちょっと書いたら、すこぶるいい。ああ、もっと早く手に入れていれば良かったな。これから、長い付き合いになりそうだ。脳プリントの仕事、よろしく頼みます。

これです。

これこそ、いい買い物だ、と思いました。

僕が目指したいのは、こういう買い物の体験です。「何を選ぶか」だけが大事なわけではない。むしろ、「どうやって選ぶか」が大事。選んだプロセスに納得できる買い物が、いい買い物なんだと思います。

どうやって選ぶかの課程を楽しめる。そして、納得して選んだものが、生活に影響を与える。そんなことをワインでやれたら最高だな。ネットだと難しいのかな。いやでも、この気持ちがブレなければ目指す方向にいけそうな気がする

もし、お客さんに、僕が体験したようないい買い物をしてもらえたら、すごく嬉しいなあと思います。僕が提案するワインで、小さな人生のターニングポイントを作れたら、なんて素敵だろう。だからこそ、半端な提案はできないという緊張感もある。責任をもって、良いと思うものだけを伝えないと。そのためには、まだまだ選球眼も磨いていかないといけない。そう思ったら、ちょっとドキドキしてきました。

あ、これは準備不足のドキドキとは違うドキドキね。

結果、バタバタ、ワクワク、ドキドキ×2種類、続くことになりそうです。

先生、ありがとうございました。

 

今週のワインとおつまみ

Mahi SINGLE VINEYARD Twin Valleys CHARDONNEY 2016 Marlborough

マヒ シングルヴィンヤード ツインヴァレーズ シャルドネ2016 マールボロ

Mahi SINGLE VINEYARD Twin Valleys CHARDONNEY 2016 Marlborough

海外に行くことが極めて難しい世の中になってしまいましたが、またニュージーランドに行けたら、再訪したいワイナリーのひとつがこの「Mahi」。オーナーのブライアン・ビックネルさんはとても朗らか。明るくて人懐っこい。しかし、ワインに向き合う姿勢は極めて冷静。その人柄がそのままワインに反映されているように思います。

野生酵母で樽発酵、樽熟成、シュールリー。こだわりの製法で作られたこのシャルドネは、フレッシュ感の奥にある深い旨みがたまりません。一口飲んでにっこり。喉を過ぎて感じる余韻ににっこり。ブライアンさんの笑顔とリンクする味わいです。

ブライアン・ビックネルさんと岩須

あわせたのは、岐阜の名産品「明宝ハム」の柔らかいバージョン「ソフト」。白ワインでもこれくらい複雑な味わいを持つものは、お肉とあわせるのがよいですね。凝縮した旨みのハムと凝縮した旨みのワイン、ばっちりあいました。ブライアンさんにもこのハム、届けたいくらい。

明宝ハム
明宝ハム

 

 

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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