オリンピックとワイン

ソムリエブログ

コロナによって僕たちは未体験ゾーンに来てしまいました。刻々と変わる情報の中から、何が正しいのかを読み取ることは、僕にはとても難しいです。こういう場所で何かコロナ関連のことを書き残すことも難しいと感じています。とにかく悲しいことが少なめで収束してほしい。そして収束したあと、また活気ある世界に戻ると信じたい。今書けるのはそれだけです。

今回は、コロナのことではなく「オリンピックとワイン」というテーマで書いてみます。

僕はラジオの仕事もやっています。主に東京のラジオ局の原稿を作る仕事なのですが、その関係で、オリンピックの開催延期によって各業界はどんなことになってるのかをちょっと調べておきたいと思って、情報を集めています。競技関連の人、宿泊関連の人、そのほか開催にむけて準備していたさまざまな仕事の人、どれくらいの影響があるんだろう。今後、それぞれの業界でそれぞれの問題をどのように対処していくんだろう。こういうときに、前向きになれるような良い知恵が出てくるといいな、なんてネットをサーフしていますが、実際は、まだそのへんの情報はぜんぜんネットに上がっていません。きっとまだ今頃バタバタとリモート会議をやっている段階なのだろうなと想像します。で、そうやってオリンピックまわりのことを調べているときに、ふとひとつの疑問がわきました。

あれ?我々のいるワイン業界って、オリンピックとどんな結びつきがあるんだっけ。大会の盛り上げや、海外のお客さんのもてなしなど、なにか大きな取り組みってやってたんだっけ。ワインの店を10年やっているくせに、そのへんのことを完全にスルーしてました。こりゃいかんと思って調べてみました。

検索ワードは「オリンピック ワイン」。ある程度検索結果を予想しながら、エンターを押します。

むむ?

続々と出てきた記事は、僕の予想とは違いました。

オリンピック限定ワイン「サントネージュ 限定醸造日本ワイン5品種ブレンド」が2019年10月1日発売。これを紹介する記事がたくさん。

ほう。ぜんぜん知らなかったぞ、こんなワインが出ていたなんて。販売元はアサヒビールか。アサヒビールは『東京2020オリンピックゴールドパートナー(国内で最高水準のスポンサー)』で、ワインのカテゴリーではアサヒビールが国内唯一の企業だとな。
(ビールなのにワイン?と思う方もいらっしゃると思いますが、アサヒビールは「サントネージュ」というブランドで長く日本ワインを作っているワインメーカーでもあります)

写真を見ると・・・オリンピックの公式ロゴが入っていて、オフィシャルの製品だということが誰にでもわかるようになっている。原料のぶどうは日本産のぶどうを100%使用、と。なるほど、輸入原料を混ぜない純日本産のワインということですね。5種類のぶどう品種をブレンド??あ、これは五輪の5に引っかけたシャレですか。価格は赤も白も2,000円。

ということは、ワイン業界的には、飲食店で国内外のお客さまに「これがオリンピックオフィシャルワインですよ!」と紹介しておもてなしをする、とか、おうちのテレビでオリンピックを観戦しながら、このワインで乾杯しよう!っていうムードを作っていく手はずだったのかな?

と思って、どれくらいの出荷本数か、アサヒビールのお客さま相談室に聞いてみました。すると、赤白あわせて2万本程度だとのこと。むむむ、少ない。そして「完全予約受注制」なので、すでにアサヒビールに在庫はなく、あとはそれぞれの酒屋さんが持っている在庫のみ。僕の住んでいる愛知県だと、名古屋の「やまや藤が丘店」が購入しているので、そこに聞いてみてくださいとのことでした。聞いてみたら赤・白5本ずつは在庫があるそうです(3.31現在)。でも、愛知だとその他ではなかなか手に入らないようで。

うーむ。オフィシャルワインが入手困難ってどうなんだろう。飲食店で気軽に飲めたり、スーパーやコンビニで買えてはじめて、オリンピック観戦とともに盛り上がるという形が作れると思うんだけど。

味はどうなのかな。使っている品種を見てみます。ここからカタカナが多くなりますよ。赤はメルロー、マスカット・ベーリーA、カベルネ・ソーヴィニヨン、巨峰、ヴェルデレー(セイベル9110:白ぶどう)。白はヴェルデレー、デラウェア、甲州、シャルドネ、ピノ・グリとなっている。赤はなんとなくボディ感があって滑らかな味なのかなと想像がつきますが、白はヴェルデレーがマイナーすぎて、どんな香りや味わいなのかちょっと僕には目算が難しいです。

結果、僕はこの検索結果にとっても違和感を感じてしまいました。

もしかするとネットの世界でオリンピックと入れると、オリンピックの公式パートナーが上位表示される傾向にあるのかもしれません。が、それにしても僕の検索能力では、ワイン業界がオリンピックに向けてなにかアプローチをしているという動きをちっとも探すことが出来ませんでした(見つけられないお前の目が節穴なんだよ!というお叱りがあれば、先に謝っておきます、すみません)。

でもね、オリンピックを日本のワインを海外にアピールする場として位置づけるならば、僕はやることは決まっていると思うんです。そのやるべきことが、全然ネットの記事に出てこないのは、変だなあと思うんです。

そのやるべきこと。これをご覧のワイン業界の方はわかりますよね。だって、今日本は、今後のワイン飲み人口減少に備えて、輸出で頑張れる土台作りをしなきゃいけない時期ですもんね。だから、今、日本のワイン業界が海外のお客さまに向けてアピールしなきゃいけないもの。僕らが売らなきゃいけないのは、アレです。声を揃えて言いましょう。せーの・・・

「甲州」

はい、全員一致かと思います。

ワイン業界の方でない方にむけて、ちょっと説明します。「甲州」っていうのは名のとおり山梨で栽培が盛んなぶどう品種の名前で、ワインの国際的審査機関「OIV」に登録されている唯一の日本固有の白ぶどう品種です。ですが、もともとのルーツはヨーロッパで、シルクロードを通って日本に伝わった品種と言われています。伝わる間に交配を繰り返して、日本に定着した頃には日本にしかないオリジナルの品種になったようです。

日本のワイン界は、このオリジナリティのある甲州こそが日本代表の選手にふさわしいと、切磋琢磨していい甲州ワインを作ろうと努力してきました。その結果、2014年には「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」が、世界的なワインコンクールの「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード」で日本ワイン初の金賞を受賞。これすごいことだったんですよ。そして、2020年1月にはこれまた世界的に大きな影響力のある「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で「グラン・シャンモリ 甲州シュール・リー」が甲州ワインとして初めて金賞を受賞しています。ワイン界の北野武って言ったら言いすぎかもしれませんが、でも世界のワインファンがいよいよ甲州を放っておかないフェーズに入ってくる感じがあります。

特にオリンピックとなると、世界中から「食事のときにワインを飲むのが当たり前」という習慣を持った人たちが日本にいっぱい来ます。その人たちは、おそらく日本ならではのサムシングを求めるでしょう。そのときに真っ先に提案すべきワインは甲州ワインだと思います。

さっき出てきたサントネージュの限定商品は、凝った作りのワインです。日本人からすると魅力があるんですが、海外の人には成り立ちが複雑すぎる気がします。流通量も足りない。それに比べると、甲州はシンプルに単一品種のワインばかりですし、かなりの数のワイナリーが作っているので入手しやすいワインです。

もちろん、他にも山梨や長野のボルドータイプ、北海道のピノ・ノワール、新潟のアルバリーニョ、日本各地で作られるマスカット・ベーリーAもアピールしたいところですが、何事も情報量が多すぎると、かえってパワーが弱まってしまいます。ワインの品種、生産量、価格の各部門を総合すると、甲州がぶっちぎり1位で代表権を獲得しているのが現状かと思います。日本酒も焼酎もある酒文化豊かな日本では、まず「日本ワインと言えば甲州」という名前を世界に伝えるのが優先タスクでしょう。

そうそう、東京オリンピックは2021年7月23日に開幕することが決定したようですね。たぶんめちゃくちゃ暑いですよね。大会の運営が大丈夫か心配になってしまいますが、もし、余裕を持ってワインを飲める環境が整うならば、渇いた喉に冷えた甲州はハマると思います。甲州はさらっとキリッとが持ち味なので。

で、「日本で飲んだあのKoshu、夏にぴったりだから自分の国に帰っても飲みたい」と思ってもらえたなら、しめたもんです。夏が暑い国で、ワイン文化が根付いている国、たとえばスペイン、イタリア、中国、シンガポールなどのワインラバーなら興味を示してくれるんじゃないでしょうか。

好きになってくれたら、さらっとした辛口以外にも、スパークリングや甘口、コクがやや強い高級バージョンと、ワイナリーによる個性があることも紹介できます。ちゃんと奥行きを持ってるワインはマニアを唸らせます。

(ただ本心を言うと、その昔、僕は沢木耕太郎のノンフィクション「冠 OLYMPIC GAMES」(2004年)を読んでしまった過去があります。オリンピックのすさまじい商業化が暴露された本です。この本で、オリンピックが聖なるイベントとはほど遠く、実際は経済優先のマネーゲームであるということを知ってしまいました。だから、それ以来、個人的にはオリンピックがキラキラした美しいものであるとはまったく思わないですし、メディアの軽薄な盛り上げ方もちょっと好きじゃないと思うことが多いです。が・・・)

事実として、オリンピックが日本に多くの人が集まるイベントであること、それは間違いないことです。2019年度の訪日外国人は3,188万2千人。2020年度の政府の目標は4,000万人だったのですが、もちろんこれはコロナで達成不可能でしょう。でも2021年、無事にコロナから世界が解放されれば、反動はきっと来ます。消費行動は活発になるはず。と信じてます。

そのとき、外国の方にどんな体験を持って帰ってもらうか。これを真剣に考え、取り組むことは、オリンピック後の日本の産業を盛り上げることにつながると思います。

不幸にして1年伸びました。とんでもなく大変な思いをしている人も多いでしょう。でも、ワイン業界にいる人は、自分の商売の前進&業界全体の前進を考えると、少しは明るくなれるんじゃないかと思います。この伸びた期間、アイデアを出しあって、世界に甲州を売ることも考えてはどうでしょう。

たとえば・・・・

  • 甲州の生産者がまとまってプロモーションをやる
  • ソムリエ協会が会期中に甲州の試飲イベントを打つ
  • オリンピック客に山梨まで日帰りの甲州体験ツアーを提案する

もうちょっと身近なところですぐに取り組めるのは

  • 甲州を薦める各国語のPOPを小売店や料飲店に置く

これなら僕もすぐできるな。やってみます。オリンピック客はうちの店には来ないかもしれないけど、でも外国のお客さまが戻ってきたら、ちゃんと対応できるようにしておこう。

やったら、どんなふうにやったのか、またここに載せます。

さあではこれから、やまや藤が丘店に、公式マークが入ったサントネージュのワインを買いに行ってきます。公式がどんなものかは知っておきたいですので。そのワインを飲みながら、また甲州盛り上げのことを考えてみたいと思います。

この記事の筆者

NZワインラバーズ編集部

岩須 直紀
ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。
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