小林克也さんの影響

 

お客さんからたまに「新メニューってどうやって考えているんですか?」と聞かれます。

うちの場合は、シェフ発案のものもあれば、僕発案のものもあります。どちらにせよ、試作を繰り返し、最終的に僕がゴーサインを出して、メニュー化が決定します。

ピザやパスタがあるので、全体的にはイタリアン寄りですが、イギリス料理のシェパーズパイや、スペインのオムレツをやっていた時期もありますし、テクス・メクスのチリコンカンに手を出したり、たまに和風な鍋もやったりしました。

つまり、ジャンルはごちゃ混ぜです。

なので、たまに何屋さん?と聞かれますが、その問いへの答えは簡単で、うちは、「ニュージーランドワインとそれにあう色んな創作おつまみの店」です。

ボクモの新しい看板

新しい看板の英文はこのサイトでもお馴染みの石黒さんに監修していただきました。

日本人に馴染みがあるメニューの中で、NZワインにあうと思うものをご提供する。それが、ボクモの現在のスタイルです。

ちなみに僕は、和食も好きですし、イタリアンもスパニッシュも好き。披露宴などでいただくフレンチは、ああ、食べる芸術だなあと感心します。

特定のひとつの国や地域の食文化を紹介する店は、その土地に根付いた生活をする人たちのことを想像するきっかけになります。自分の全然知らない世界を知ることって、とても楽しい体験ですよね。

ただ、うちがやりたいのはそれじゃない。

軸はもちろんNZワインです。素晴らしくキャッチーで、なおかつ奥行きのあるNZワインの世界を楽しんでいただきたい。でも、ニュージーランドの食文化を紹介する店がやりたいわけじゃないんです。

なぜなら、NZワインのお供となる料理は、できれば、日本人にとって親しみがあって、なおかつバラエティに富んでいていた方が面白いと僕は思っているからです。ごちゃごちゃと色んなジャンルのおつまみがあった方が楽しいと思うんです。

なぜこういう考えになったのか。

たぶん、それは小林克也さんからの影響が大きいと思います。

僕は、ラジオDJ界の重鎮・小林克也さんといっしょに仕事をさせていただいて、もう20年以上になります。克也さんはおそらく、ベストヒットUSA世代の方にとっては「洋楽紹介の第一人者」というイメージが強いかもしれません。しかし僕にとっては、それだけではなく「ごった煮のプロ」みたいなイメージです。

克也さんのラジオ番組を聴いていただくとわかるのですが、洋楽を中心としながら、そこに日本のロックやポップス、アイドル、演歌などが挟まっています。選曲リストを見ると、それはもう縦横無尽に、さまざまなジャンルの音楽を紹介しているのがわかると思います。常に「この時間のこのムードだったら、こんなのどう?」と、今現在の空気感に響きそうなものを、膨大なアーカイブから抽出して提案する感じかなあと思います。

そして、時折、狙いすましたように「意外性でリスナーを驚かす」ということをやるのです。

これはなかなか文章では伝えづらいんですが、たとえば、ある偉人の物語を朗読したあとに、曲紹介をせずに音楽をかける。そうすると、よく知ったその音楽が、これまでとはまったく違う感じに聞こえて、その音楽にまた新しい受け取り方が加わる。みたいなやり方です(ちなみに、その物語の原稿を僕が担当しています)。わかりますか?原稿担当のくせに文章力が足りてないですかね・・・。

とにかく、音楽って「並べる配置のやり方」や「どんな言葉のあとに流すか」によって、新しい楽しさが生まれるんだよ、という提案をし続けている。ざっくり言うとそんな感じだと僕は思っています。

その提案の中には、50年以上音楽シーンを観察し続け、アーティストへのインタビューをし続けてきた克也さんが持つ「音楽への独自の視点」が常にあります。

巨人の克也さんが、空に浮かんできた音楽に狙いを定め、ひょいっと手に取って、くるくるっとまるめてポンと空気中に放つと、それがなんとも新しい輝きを持つ。いきなりの比喩で申し訳ないですが、そんなイメージです。

僕のやっている飲食業は、克也さんのラジオとはぜんぜん違うし、影響力は足もとにも及びません。でも、なにか「筋の通ったごった煮」みたいな感覚は、勝手に受け取って、知らず知らずに実践している気がします。

ワインってこういう楽しみ方もいいんじゃない?王道のやり方でなくても、そこにNZっていう軸があれば、いろんなジャンルの料理を組み合わせることで、意外性が生まれ、新しい輝きを持つこともあるんじゃないかなあ、なんて。

そんなことを考えながら、今週、これまでとはちょっと違う感じのものをメニューに入れました。

「ソフトシェル・シュリンプのビーフン(パクチー入り)」です。

ワインの店、ビーフンに手を出すの巻。ははは。ちょっとした意外性。違和感。そこがいいかなと。

実はこれ、僕の体験が元になっています。ニュージーランドのワイナリーを回ったとき、「このワインは、香港やシンガポール、マレーシアのような東南アジアのマーケットで売れているんですよ」とあるワインメイカーが言っていたのが、僕の中でとても印象に残りました。

確かに、ニュージーランドって、地理的に東南アジアは近い。アジア系の人もけっこうたくさん住んでいるし。文化の交流があるのは自然なことで、生産者がアジアに受け入れられるようなワインをつくるというのも、うなずけるなあと思ったのでした。

ワイン界では、ソーヴィニヨン・ブランゲヴュルツトラミネールなどのアロマティックな白ワインを、スパイシーだったり香草が入ったりするアジアンフードにあわせるのは、ペアリングの模範例です。

その相性の良さを知っているのに、自分の店でやらない手はないよなあ、とは思っていたのですが、「飲食店ならではの超おいしいビーフン」にするにはどうしたら良いか、なかなか思いつきませんでした。なのでこれまでメニュー化できずにいました。

しかし、ちょっと前、ひらめいたのです。かつて人気メニューだったけど、最近、続々と出る新メニューに押し出されてしまっていた「ソフトシェルシュリンプ(殻ごと食べる海老)」があるじゃないか。あれを復活させ、ビーフンとドッキングしたら、けっこうよい感じになるんじゃないの?

何度か試作をする中で、シェフが「実はこれを入れるのが、僕、好きなんですよね」と、あるスパイスを入れたところ、やったー!これだー!NZ白ワインとばっちりあうー!となりました。で、このたび、晴れてメニューに加わった次第です。

スパイスは、そんなに珍しいものじゃないけれど、まだ内緒。

お店に来ていただいたら、もちろんお伝えします(という姑息なことをやらねばいかんほど、まだ飲食店はくるしいのだ笑)

と言うわけで・・・

今週のペアリング提案

新メニュー「ソフトシェル・シュリンプのビーフン(パクチー入り)」

ソフトシェル・シュリンプのビーフン(パクチー入り)

この強力な旨みのビーフンにあわせるとバッチリなワインはこちら。欲張って4つも選んじゃった。白が3つ、ロゼが1つです。

ギーセン オーガニック ソーヴィニヨン・ブラン 2020

ギーセン オーガニック ソーヴィニヨン・ブラン 2020

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相性 ★★★

最近入荷したオーガニックのソーヴィニヨン・ブラン。

ワインが持つハーブの風味と、パクチーの風味が非常によくマッチして、ビーフンに柑橘類のドレッシングをまとわせたような後味が楽しめます。

ギブソンブリッジ ピノ・グリ リザーヴ 2018

ギブソンブリッジ ピノ・グリ リザーヴ 2018

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相性 ★★

やや厚みのあるコクを持つNZのピノ・グリは、あわせられる食事の幅が広いのが特徴。

海老の強い旨みが余韻に残っているうちにこのワインを含むと、かなりゴージャスで重層的な味わいが楽しめます。

(ちなみにこのワイン、もうすぐ売り切れちゃいます)

大沢ワインズ フライングシープ ゲヴュルツトラミネール 2014

大沢ワインズ フライングシープ ゲヴュルツトラミネール 2014

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相性 ★★★

パクチー×ゲヴュルツトラミネールは、とてもエキゾチックな味わいに。

そしてビーフンにしのばせた秘密のスパイスが、ワインの持つスパイシーさと呼応します。辛みスパイスを追加するとさらに相性がよくなりそう。

グラハムノートン ピンクデザイン ロゼ 2020

グラハムノートン ピンクデザイン ロゼ 2020

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相性 ★★

ロゼの本場、南仏プロヴァンスは、魚介の宝庫。ってことで、海の幸とロゼワインの相性はフランス人が実証済み。

海老の強い旨みが、ほんのり苦みの残るロゼと心地よく調和します。

 

はい、ということで、今週のブログはこれにておしまい。

この後は、音楽です。また来週!

小林克也&ザ・ナンバーワン・バンド  アルバム「もも」(1982年)から

「うわさのカム・トゥ・ハワイ」

この記事の筆者

岩須
岩須 直紀
ニュージーランドワインが好きすぎるソムリエ。ラジオの原稿執筆業(ニッポン放送、bayfm、NACK5)。栄5「ボクモ」を経営。毎月第4水曜はジュンク堂名古屋栄店でワイン講師(コロナでお休み中)。好きな音楽はRADWIMPSと民族音楽。最近紅茶が体にあってきた。一般社団法人日本ソムリエ協会 認定ソムリエ。
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